国や宗教・思想による風習のちがいを理解して接することで、より気持ち良く滞在していただけます。
それぞれの事情に合わせた接客を心掛けるためのポイントを紹介します。
おいしい食事をたっぷりと提供することが、中国人にとって最大のおもてなしにあたります。たくさんの料理を用意してもてなすため、 少し残すのがホストに対するマナーであるという伝統がありましたが、最近はこの意識も少し薄れつつあるようです。とはいえ、 日本の料理に対しては量も品数も少ないと感じる中国人が多いようです。バイキング形式、おかわりができるご飯も喜ばれます。 ご飯や味噌汁、パンなど、もし無料でお代わりできるメニューがあれば、ぜひ食事前に説明しましょう。
日本の伝統文化や礼儀正しさ、清潔感に関心を持っています。お買い物では、最新家電やブランド品などを買っていかれる傾向があります。また、有名観光地やトレンド商品などに興味を持っています。
「医食同源」の思想のもと、全ての食材には固有の性質があり、食べることで身体が温まったり、冷えたりすると考えます。そのため、温かい食事を好み、冷たい食事はあまり好みません。また、生ものを食べる習慣もあまりありません。料理の量・品数・味を重視する傾向にあり、料理の見栄えよりも見た目の多いものが喜ばれます。テーブルにたくさんのお皿を並べて出したり、バイキング形式やおかわりができるご飯がある場合はぜひ説明しましょう。また、食事の際には必ずスープを飲むので、可能でしたらスープ類を提供しましょう。
年代別では20~30歳代の若い層が最も日本を訪れており、現代文化や流行、日本食、B級グルメなど幅広いものに高い関心を持っています。台湾では、日本のテレビ番組も放送されており、リアルタイムで様々な情報を入手しています。
山盛りのご飯、お膳いっぱいに載せた料理を提供するのが、韓国人のおもてなし。外食でも、おかずは何回でも無料でおかわりできるのがふつうです。 ご飯、汁物、漬け物が基本メニューで、特に多汁物を食べないと食事をした気がしない人が多いそうです。 器を持つ習慣がなく、ご飯と汁物は、スプーンを使って食べます。旅先では食事をたくさん食べて楽しむ傾向があるようです。また、本来温かい料理が冷たくなった食事を嫌う傾向があります。(お弁当、冷たいそばなど)
国民の4分の1はキリスト教ですが、儒教の精神が根強く、目上の方に対しての礼儀を重んじ、お酒の席でも厳格なルールがあります。若い層が多いことから、体験やサブカルチャーが人気で、お祭りなどの日本の特別な催しを好みます。また、食事中は麦茶やトウモロコシ茶を飲むのがふつうなので、緑茶を提供する際は確認しましょう。
ダイエットの意識も高く、自然食が人気で、 ベジタリアンも多く存在します。都市部を中心にベジタリアンが多く存在するため、多数のベジタリアンレストランがあり、 一般のレストランでもベジタリアン向けメニューを置いている店舗も多いようです。日本食は健康食だと思われているため、人気があります。食文化に関する興味が高く、新しいもの・流行のものを好みます。また、食事を簡単に済ませる傾向にあります。
米国国内では公共の場での喫煙が禁止されています。分煙や全面禁煙を実施していない店舗では、案内する席に注意しましょう。 ベジタリアンのほか、ユダヤ教徒、ヒンドゥー教徒が存在するため、食べられない食材についてオーダー時に必ず確認する必要があります。伝統文化・歴史(神社仏閣、生け花、着付けなど)、日本のポップカルチャー、日本食に高い関心を持っています。禅の文化なども興味を持たれています。
美食の国フランスでは、食事は家族や友人と一緒に楽しむ大切な時間。そのため、食事の時間はたっぷりと取ります。フランス料理は、アントレ、メイン(肉・魚・温野菜)、 デザート、コーヒーで構成されるため、デザートを食べないと食事が終わった感じがしないという傾向も。アルコールに関しては、水を飲む人が増えたとはいえまだまだワインの消費量が多い国ですが、日本のビールはフランスの日本料理店でも飲めるため、好むフランス人も多いようです。
フランスではパンはおかわり自由で、追加料金はかかりませんので、おかわり自由でない場合は、有料である旨を事前に伝えましょう。 逆に、緑茶はフランスでは有料で出すところが多いので、無料サービスであることを説明してあげると喜ばれるでしょう。自国の言語や文化に強い誇りを持っていて、同様に自国の食文化と伝統に対しても強いこだわりを持つのが特徴です。 日本の伝統的な文化だけではなく、コミックやアニメといった最近の日本の若者文化にもとても興味を示しています。
イスラム教徒は世界各地に居住しており、特にアジア、北アフリカ、中東における人数が多いとされています。訪日外国人で最も多い、インドネシアやマレーシアなどの東南アジアの国の方々にも該当します。
宗教が生活の土台となっており、食事に規制事項があるため、食材に非常に気を遣うのがイスラム教徒です。イスラム法(=シャリーア)では食事のマナーも定めていて、「食材」料理に付着する「血液」、「厨房」「調理器具」が、教義に則ったものかどうかに対してとても敏感です。 ラマダンと呼ばれる断食期間には、日中、水を含めて一切の食事を口にしません。その代わり、日没とともにたくさんの食事を摂取します。
イスラム教徒(=ムスリム)が避ける食材のうち特に注意が必要なもの
「豚」「アルコール」「血液」「宗教上の適切な処理が施されていない肉」
この4つの食材はコーランで食べることを禁じられているものです。豚以外でも肉は、アッラーに祈りを捧げ、 特殊な屠殺方法を行ったハラル・ミール(ハラル・ミートとも)しか口にしません。
豚に関しては、姿を見ることさえも嫌悪されるため、メニューに豚のイラストや写真を載せることは避けるべきです。肉そのものだけではなく、「ブイヨン」「ゼラチン」「肉エキス」「ラード」など豚の肉や骨、油が使われた食材は食べることができません。 植物性のもので代用しましょう。
アルコールは飲用以外にも、「料理酒」「調味料」(みりんなど)「香り付け」など様々な用途で料理に使われることがありますので、特に注意が必要です。
教義で禁じられているわけではないが嫌悪感を示す食材
「うなぎ」「イカ」「タコ」「貝類」「漬け物などの発酵食品」
これらについては宗教上の教義で禁じられているわけではありませんが、一般的に嫌悪感を示されることが多いので、 料理の食材として扱うことは避けたほうがよい食材です。
食材がわからないと安心して食事を取ることができないため、オーダー時に料理に含まれる食材・含まれない食材を説明しましょう。
ハラルは、イスラム法において「許可された」「合法的」という意味であり、生活全般に関わる言葉です。イスラムの教義に則って食べることが許可されたものを指し、野菜や果物、大半の魚介類はハラルです。詳しくは「ムスリム旅行者おもてなしハンドブック」をご覧ください。
仏教徒は世界各地に居住していますが、その9割以上は中国、日本、タイ、ベトナム、ミャンマー、スリランカ、カンボジア、韓国などでアジアに住んでいます。
多くの宗派が存在し、宗派ごとに食に対する意識が異なります。もともとは、生き物を殺生することを禁じていたため、精進料理が生まれましたが、 現代では肉食をする人も増えています。僧侶や厳格な仏教徒は、食事そのものを日常の修養の一つとして捉えていることもあります。
一部の厳格な仏教徒が避ける食材
肉全般、牛肉、五葷(ごくん:ニンニク、ニラ、ラッキョウ、玉ねぎ、アサツキ)
食に関して宗教的な禁止事項があるのは、一部の僧侶、厳格な信徒のみです。五葷が避けられるのは、臭いが強く修行の妨げになるためという説と、陰陽五行思想に基づくという説があります。肉そのものだけではなく、「ブイヨン」「ゼラチン」「肉エキス」「ラード」バター(牛乳の脂肪)」「ラード(豚の脂肪)」 「ヘット(牛の脂肪)」などを調理時に使わないよう注意が必要です。植物性のもので代用しましょう。
一部の仏教徒(大乗仏教、中国系の観音信仰など)、厳格な僧侶や信徒には食事の規制事項があります。 食べられない食材については、オーダー時に必ず確認しましょう。個別のきめ細やかな対応をすると喜ばれるでしょう。
キリスト教徒は世界各地に居住していますが、特にヨーロッパ、アメリカ大陸に多くの信徒が住んでいます。
末日聖徒イエス・キリスト教会(通称モルモン教)、セブンスデー・アドベンチスト教会のように食に関する規制事項を設けている宗派もありますが、 少数派で、多くの信徒は宗教儀式や断食を行う場合を除いて、自由に食事を楽しんでいます。基本的に、食に関する禁止事項はほとんどないと考えてよいでしょう。
肉全般、アルコール類、コーヒー、紅茶、お茶、タバコ
上記の食材を避ける宗派は、キリスト教の中でもごく一部です。
モルモン教では、アルコール類、コーヒー、紅茶、お茶、タバコの摂取が禁じられています。
セブンスデー・アドベンチスト教会では、信者に菜食を勧めています。
肉食も一般的で、キリスト教の伝統的な行事(感謝祭、クリスマス、カーニバルなど)では、七面鳥、羊、魚(タラなど)などを用いた料理が食べられています。
一部のキリスト教徒(モルモン教、セブンスデー・アドベンチスト教会の信徒など)には、食事の規制事項があります。 食べられない食材については、オーダー時に必ず確認しましょう。個別のきめ細やかな対応をすると喜ばれるでしょう。
ヒンドゥー教徒は、インドやネパールに多数存在しています。
宗教が生活の土台となっており、食材、食べ方(誰と一緒に食べるか)、食事を食べる時間や時期に対して非常に気を遣うのがヒンドゥー教徒です。ノンベジタリアンの人と一緒に食事することを嫌う人もいるようです。 また、ヒンドゥー教では不殺生を旨とするので、肉食を避ける人が多数存在します。穢れに対する意識が強く、他者から唾液によって穢れが感染すると考えられ、食器は使い捨てが一番清浄であるという意識を持っています。家庭で食事することを好む人が多いのは、外食の場合、同じ調理器具で肉を調理した可能性があるからです。
ヒンドゥー教徒が一般に避ける食材
肉全般、牛、豚、魚介類全般、卵、生もの、五葷(ごくん:ニンニク、ニラ、ラッキョウ、玉ねぎ、アサツキ)
多くのヒンドゥー教徒は、肉全般を避けますが、中には肉食をする人もいます。その場合でも食べる対象は、鶏肉、羊肉、ヤギ肉に限定されます。牛は神聖な動物として崇拝の対象となっているため、食べることは禁忌とされています。豚は不浄な動物とみなされ、基本的に食べることはありません。肉そのものだけではなく、出汁や脂肪が入っているものも避けますので、 「ブイヨン」「ゼラチン」「肉エキス」「バター(牛乳の脂肪)」「ラード(豚の脂肪)」「ヘット(牛の脂肪)」などを調理時に使わないよう注意が必要です。
右手は神聖な手、左手は不浄な手とされているため、給仕する場合には必ず右手を使いましょう。カーストによって、食の禁止事項が異なるため、食べられない食材についてオーダー時にきちんと確認を取ると喜ばれます。 料理に含まれる食材・含まれない食材を説明しましょう。 野菜天ぷら、豆腐などは、ベジタリアンにもノンベジタリアンにも人気があるメニューです。
ベジタリアンは本来、「命を奪う、もしくは、傷つけて得られる食品を食べない人」という意味を持ちます。 宗教上の理由、健康のためにベジタリアンになる人に加え、近年ではアニマルライツ(動物の権利)、環境保全の理由からのためベジタリアンになる人も増えています。
ベジタリアンは世界各地にいて宗教の戒律や国の文化によってルールも異なるため、ベジタリアン特有の食事マナーやルールは存在しません。ベジタリアンは、何を食べるかによって分類されます。一切の動物性食品(肉類・魚介類・乳製品・卵など)のほか、蜂蜜も食べず、革製品などの動物から得られる製品も使用しない「ヴィーガン」、純粋菜食の「ピュア・ベジタリアン」、乳製品を食べる「ラクト・ベジタリアン」、植物性食品に加えて乳製品と卵の両方を食べる「ラクト・オボ・ベジタリアン」などさまざまですが、 国際ベジタリアン連合では「ラクト・オボ・ベジタリアン」を基本的なベジタリアンと認めています。
ベジタリアンが一般に避ける食材
肉全般、魚介類全般、卵
一部のベジタリアンが一般に避ける食材
乳製品、根菜・球根類などの地中の野菜類、五葷(ごくん:ニンニク、ニラ、ラッキョウ、玉ねぎ、アサツキ)
乳製品は健康上の理由でベジタリアンとなった人が、避ける傾向が多いようです。根菜・球根類など地中の野菜類は「ジャガイモ」「にんじん」「しょうが」「にんにく」「サツマイモ」などです。 インドのジャイナ教では、掘り起こす際に小さな生物を殺傷してしまう恐れがあるため、食べることが禁じられています。五葷は厳格な仏教徒、ヒンドゥー教徒の間で食べることが禁じられています。肉そのものだけではなく、出汁や脂肪が入っているものも避けますので、 「ブイヨン」「ゼラチン」「肉エキス」「バター(牛乳の脂肪)」「ラード(豚の脂肪)」「ヘット(牛の脂肪)」などを調理時に使わないよう注意が必要です。
ベジタリアンには、野菜料理だけでなく豆腐も好んで食べられています。欧米では豆腐ハンバーグが人気のようです。 野菜ならすべて大丈夫というわけではないので、ベジタリアンかノンベジタリアンかを確認したあと、野菜を確認しましょう。 オーダー時にきめ細やかな対応をすると喜ばれます。